今まで何度も取り上げていて、いまさら何かと切り出すのもなんだが、一度整理しておく。
はじめてArduinoのをみたのはおそらく2010年の年末だ、なんと近所のRadio Shackで入門本と一緒に売っていた。 (RadioShackが昔のように、電子工作の小物を置くようになったというのは非常にうれしいことである。最近はRaspberry PiとかBeaglebone Blackの入門キットも売っている。 閑話休題)
BasicStampに比べると値段が手ごろだったので購入したのだが、このときの解釈は Arduino = 開発ボード
しかし、入門本を読み、LEDの点灯を試み、サーボモーターやリレーの操作、さらには16×2ケタのLCDを表示するという一応のイニシエーションを行ったあと、改めて眺めてみれば、Arduino というのは開発ボード(だけ)ではなかった。
ボードを購入したあと、ユーザーはArduinoのサイトから開発環境をダウンロードしてプログラミングすることになる。 このときSketchという言語でプログラムを書くのだが、これはWiringという言語がもとになっている。 そしてWiringもSketchも基本的にはC言語を使ったFrameWorkだ。
IDEのGUIはJavaでできているものの、そのバックグランドで動いているものはAVRマイコン用に特化したGCC(AVR-GCC)であり、AVRDUDE(AVR Downloader/UploaDEr) という、マイコンプログラムの先人達によって鍛えられたAVRマイコン用のTool chainである。
ではArduino環境は従来のマイコン開発環境と比べると何が違うのか。
-ハードもソフトもできる限りのアブストラクト化がなされている。
という一点につきる。 AVR8はportB,C,D それぞれ8ビットが入出力になっており、本来のATMEL のC言語の操作ではこれらのポートレジスターにビット操作での書き込みをおこなっていた、つまりPortBの ビット0とか6とかを気にしてコーディングしていくのだが、 アブストラクション(抽象化)を行った結果、 ArduinoのユーザーはDigital pin 0~13, Analog input pin 0~5 という入出力ピンの操作だけを考えればよいようになっている。
スケッチもSetup()という初期化ルーチンとloop()という繰り返しルーチンを書けば、あとはTool chainがコンパイルし、プログラムをアップロードしてくれる。 このからくりはArduino のプログラムフォルダー(自分のWindows環境ではC:\Program Files (x86)\Arduino\hardware\arduino\cores\arduino)の中のmain.cppを眺めてみるとなんとなく見えてくる。
#include <Arduino.h> int main(void) { init(); #if defined(USBCON) USBDevice.attach(); #endif setup(); for (;;) { loop(); if (serialEventRun) serialEventRun(); } return 0; }
何故にwhileを使わず、for(;;) という構文を使っているのか、という疑問はさておき、Arduino のスケッチはこの上のmain.cppに組み込まれるsetup()とloop()関数を定義しているというわけで実際にコンパイルされるのはC++のソースだった。
Arduinoでは多くの周辺デバイスとのインターフェース、通信プロトコルなどはすでにライブラリーで提供されている。 またArduino自体にマイコンチップをプログラムできるような周辺回路およびブートローダーが組み込んてあるからチップにコードを焼くための専用プログラマが必要ない。
下のコードは、入門本で一番最初に出てくるLEDを点滅させるためのスケッチコード
int led = 13; void setup() { // initialize the digital pin as an output. pinMode(led, OUTPUT); } void loop() { digitalWrite(led, HIGH); // turn the LED on (HIGH is the voltage level) delay(1000); // wait for a second digitalWrite(led, LOW); // turn the LED off by making the voltage LOW delay(1000); // wait for a second }
ところがArduinoのIDEがインストールされたPC環境ではすでに上に述べたようにGCCとかtoolchainとかが導入済みになっているため、 以下のようなプログラムををCで書いて、コマンドラインを使ってコンパイルし、Arduinoへ書き込みをすることが可能になっている。 下のコードでやっているのは上 のスケッチと同じくPin 13を点滅させることだが、ArduinoスケッチのProgramがコンパイルしてアップロードするサイズが1000バイト以上あるのに対し、下のプログラムは200バイト以下になる。abstractionの代償はプログラムのサイズということらしい。
#include <avr/io.h> #define F_CPU 16000000UL #include <util/delay.h> #define LED PB5 #define LED_DDR DDRB #define LED_PORT PORTB #define DELAYTIME 500 //delay 500ms. See _delay_ms definition #define setBit(sfr, bit) (_SFR_BYTE(sfr) |= (1 << bit)) #define clearBit(sfr, bit) (_SFR_BYTE(sfr) &= ~(1 << bit)) #define toggleBit(sfr, bit) (_SFR_BYTE(sfr) ^= (1 << bit)) long i; int main(void) { // setup() setBit(LED_DDR, LED); /* set LED pin for output */ // loop() while (1) { setBit(LED_PORT, LED); _delay_ms(DELAYTIME); clearBit(LED_PORT, LED); _delay_ms(DELAYTIME); } }
while分がArduinoスケッチのloop()に相当し、その上がsetup()に相当する。
上をblink.c というファイル名で保存し、Arduinoがつながった状態でコマンドラインから以下を実行するとLEDの点滅を始める。(もちろんserial portによってCom5部分は異なる)
>avr-gcc -Os -mmcu=atmega328p blink.c -o blink.o >avr-objcopy -O ihex blink.o blink.hex >avrdude -p atmega328p -c arduino -P com5 -U flash:w:blink.hex:i
コマンドライン3行をターミナルモードで打ち込むわけだが、Batch file にしてもよい。その実行はarduinoのアップロード機能を使うのに比べて恐ろしく早い、ということも実感できると思う。
Arduinoを使うのは野球のグローブをつけて裁縫をやるようなものだ、とかなんとか言った人がいる。 抽象化が過ぎてマイコンをプログラムしている気がしない、ということで、たしかに熟練者の目からみればもっともな話かもしれないが、Arduinoの一番の目的はマイコン学習を始めるための第一歩を容易にすることにある。(と思う) 豊富なサンプルコードやライブラリーを見るとその楽ちんさは尋常ではない。ハードとソフトの両方への入門が可能な環境になっている。 ずうっとArduinoとスケッチでいいじゃない、十分だよ、という気にもなってくる。 それにArduino IDEのサンプルメニューを眺めているとわかるが、Arduino自体をAVRマイコンのプログラマにしてしまうスケッチがご丁寧に同梱されている。 Arduinoにものたりなくなってきたら、(入出力が6本以下のマイコンでできることを、何が悲しゅうて28ピンのマイコンプラス不要な回路を載せたボードでやってまんねん、自分はミニマリスト的なアプローチがすきやねんとか思いはじめたら)ATtinyのチップだけ100円で購入してArduinoを使ってプログラムを焼くことも可能になっているわけだ。